2019年6月掲載
先日、ある大手家電量販店で腕時計のバンドを交換した時のことです。
ずらっと壁面に並ぶバンドの中から、同系色の二つを見比べていました。
すると、近くにいた白髪で上品な感じの量販店のユニフォームを着た男性が横に近づいてきました。
「幅は17ミリでいいか図ってみましょうか?」さっと物差しを私の時計に当てて確認してくれました。
私は尋ねました。
「この二つは同じに見えるのですが値段の違いはどこにありますか?」男性は少し得意気に答えました。
「洋服に例えると仕立ての違いのようなものです。どちらも同じメーカーの素材を表も裏も使っていて、防水性も他社よりすぐれていて差はないのですが。」
と言いながらケースから両方を取り出して、裏側を見せてくれました。
確かに、裏地の色合いには違いがありました。
「それから、横から見てもらうとわかるんですが、二枚重ねと三枚重ねの違いです。こちらは、厚みのある分丈夫ですが、少し硬くて腕になじむのに時間がかかるかもしれませんね。」
それから、昼光色のライトの下に二つを並べて、「これからの季節こういう明るめの色合いが良いと思います。」と、穏やかに話しました。
「レジをお待ちいただいている間に交換いたしましょうか。」
と言って、私が選んだ方の会計を若い女性店員に丁寧な言葉で引き継ぐと、手際よくバンド交換を済ませてくれました。
「ありがとうございました。」と大きな声が聞こえて振り返ると、その男性は眼鏡の奥の柔和な眼で見送ってくれていました。
買い物客でごった返す週末の都心の家電量販店。
数万円以上の時計も並ぶ売り場の片隅で、数千円の時計バンドの交換に親切に対応してもらえたことにささやかな感動を覚えました。
あの人は百貨店の紳士服売り場で働いて定年後再就職したシニアの方かなと想像しながら、見違えるようになった大事な腕時計を眺めて、気持ちも明るくなりました。
キャリアコンサルタント 久保賢司