2021年6月掲載
女性は、そっとはしをそろえて置くと、軽く手を合わせて「ごちそうさま」とつぶやきました。
その女性は、仕事の帰りに、小さな居酒屋のカウンターで夕食をとっていました。
「おいしかったです。」「ありがとうございます。」店主は両手で代金を受け取りながら、嬉しそうでした。
私はその何気ないやり取りを見ていて、温かい気持ちになりました。
「ごちそうさま」という食後のあいさつは、漢字で「御馳走様」と書きます。
この「馳走(ちそう)」という文字には、意味があるそうです。
昔、客人をもてなすには、多くの人が走り回って食材を集めて料理を作ったことを表しているのです。
そのように手間をかけて食事を準備してくれた人への感謝の気持ちを込めて、食後に「ごちそうさま」とあいさつする習慣ができたのです。
今では、物流、加工、保存法なども発達していますから、新鮮な食材を簡単に十分に手に入れることはできます。
それでも、この店主は安くて良質な食材の仕入れに、毎日市場へ行きます。早い時間から仕込みをして、料理を切り盛りして、お酒を出し、客をもてなす。
客が帰ると片付ける。こういう仕事を何年も続けています。
そして、店主を支えているのは、市場や生産者、卸し業者など様々な仕事の人との長いつき合いなのです。
職場においても、仕事を手伝ってくれる人や教えてくれる人、取引業者の方など、様々な関わりがあります。
その中には、何かあたりまえにしてもらっている事もあるでしょう。
持ちつ持たれつの事もあるでしょう。
誰かに何かをしてもらう時には、自分が思っている以上に相手や、その周りの人にも手間をかけているかもしれないという想いを忘れないようにしたいものです。
何気ない会話や気づかい、あいさつで感謝の気持ちを表すよう心がけたいものです。
そうすると、仕事の味わいも変わってくるかもしれません。
キャリアコンサルタント 久保賢司